苦さが甘さに


遠い記憶と言うのは苦い想い出も甘い物に変わるのだろうか?

年をとった所為か矢鱈昔の事を思い出す事が多く成ったのだが不思議な事に嫌な思い出と言うのがそう思い出せないのだ

戦争で家を焼かれ北陸に疎開した 

そんな頃は未だ小さいから記憶には無いのだけどその後の生活は覚えている

母方の実家へ転がり込んだのだが勿論いい顔はされなかった

祖父は田舎の保守的な考え強い人で長男は大事にするが女の子供にはそれは冷淡

男一人、女8人と言う子沢山だったそうである

戦争だからと言って他の女の子供は祖父に迷惑掛ける事無かったのに私達一家だけがお荷物に成ったのだから随分と迫害めいた事も有ったらしい

暫くしておんぼろの家が建った時お袋が涙流して喜んでいたのを思い出す


そんな祖父だが私には時々懐かしく思えるし苦い想い出も薄れ 船に乗せて貰った事や柿を貰って食べた事位しか思い出せない


貧乏はずっと付いて廻った 

日頃着ていた服は親戚の子のお古が多かったしそれも痛めば修理をして着ていた

何かの折新しい服など買って貰った時の喜びが強烈でそれは良く覚えている

その所為か嫌な事を綺麗さっぱり忘れてしまって居るのだ


子供の頃は元より成人に成っても嫌な事は腐るほど有った

でもそんな嫌な事さえ今ではなんだか懐かしくほろ苦くも甘い味に変わって来ている

近い過去にも苦い思いした事は数え切れない

そんな思いをするのは人が絡むものが多い 

自分だけなら失敗も蹉跌もすぐ忘れてしまうのだけど人が絡む嫌な想い出は結構後を引く

しかしそれが時の経過と共に苦味が変化するのだ

嫌な想い出がセピヤ色に成って味が出てくる気がする

世の中訳判らなくなって色んな事件や事故や災害も増えるけど幸運に恵まれそんな物に直接巻き込まれた訳でない

しかし最近は個人的に身に降りかかる嫌な事の度合いが少なくなり偶々有った事も比較的短時間で風化してしまう

そしてそれらが徐々に懐かしいほろ苦い甘味に変わって来る気がするのだ


是は実に嬉しい事である 

アハッ つくづく年取るってそう悪い事じゃないなぁなんて思うのだ

だってこの調子で行ったら終いには嫌な事なんて何一つ思い出せない様に成るのじゃないかと思うからだ

これからの人生だってトラブルは一杯出てくるに決まってる

しかし自らが起因と成るトラブルは極力避け身に降りかかるトラブルも出来るだけ少なくなること願い

ニコニコしながらゴールに向いたいものだと思っている

今の感じならそれ可能じゃないかとの予感がする

良い予感は滅多に当らないのだけどこの予感だけは当って欲しいと心から願っている マルッ