三度目の正直☆


お酒が切れた頃に成ると見計らったように一升徳利がちゃんと届けられる
そんな事が何度も続くともう是はおみさ幽霊が置いて行くに違いないと徳蔵確信いたしました
只酒飲まして貰っているようでどうも落ち着きません
律儀と言うか義理堅い徳蔵 長崎屋産で異国の化粧品や傷薬買ってきまして空になった徳利と一緒に置いておきます
そうするってと それらの物が無くなって酒並々と入った徳利が又おいてあると言う按配
是は満更 怒ってばかりで姿消したのでは無いなぁと勝手に合点したのであります
『一体 どう言う積りなのか判らないけどあの幽霊いい所有るじゃ無いか』


かれこれ三月に成ろうかと言う有る日 徳蔵 ちょいと奮発しましてな
越後屋で着物と帯と黒塗りの駒下駄を買い求めお洒落に包装して熨斗紙を付けてきもちと書いて置いといたのです
もう初秋の風が吹き始め暑さも和らいで来た頃です
長崎屋さんの普請も完成し依頼主から立派な仕事に過分の祝儀を貰い慰労の宴ですっかり面目施して
帰宅して参りました
お土産の折り詰めは隣のお上さんに持っていくと言う如才無さも忘れちゃいません



家へ入りますと 今日は徳利だけじゃ有りません 
鯛の尾頭付き煮物 マグロの大トロの刺身 季節野菜の和え物 其れは豪華な酒の肴つきです
『あっ おみさ普請の完成を祝ってくれてるな♪』いい心持で御座います
未だ日も高いのですけど近くの銭湯でさっぱりし 
すっかり顔馴染みに成った隣の留松さんでも呼んで一杯飲むかと思案しておりました


其の時 『今日は 徳さんはもうお戻りですか?』の声が致します
『へいへい もう戻っていやす 何方か知りませんがどうぞ戸を空けて入ってくんねぇ』
『はい ではお言葉に甘えて・・』
障子戸ガタガタ言わせて開きますと 夕焼けを背に妙齢のご婦人が一人恥ずかしそうに立っております
『へっ?どちら様で あっしが徳蔵ですけど』
『あのう〜〜私・・・うらめしい〜〜の私〜〜』
『えっ おみさ〜?おめぇが〜〜?』
徳蔵が間違うのも無理は有りません
髪は綺麗に丸髷に結われて顔色は実に健康そうな肌色で其れは振るい付きたくなる良い女
それが 恥ずかしそうにもじもじして入り口に立っております


『おう〜やっぱりおみさか ささ満更知らぬ家でもあるまいし遠慮無しだぜ入ってくんねぇ♪』
『あい 有難う存じます お久し振りで〜〜』
『あはは 幽霊が何と他人行儀な ささ あがんねぇ あがんねぇ それにしてもいやぁ驚いた 見違えたぜ』
『その節は引っ叩いたりしちゃって御免なさい もう嫌われたかと心配致しておりました』
『アハハ 女心判らないにしてもおめぇを嫌う訳は無いだろ 色々と心遣いしてくれてありがとよ』
『何を仰います 私こそあなたの細やかなお気持ち嬉しく思っております 
ほら頂いたお薬で顔の出来物もこの通り綺麗に治り 南蛮渡来の化粧品で其れは顔色もとても良くなりました
髪もつやつやして参りましたし ほらこの着物と帯 貴方が下さった物ですよ』


『おやそうだったのかい 良く似合ってる〜〜色っぽいねぇ フム 惚れ直したぜ』
『いや〜〜ん 又そんな事言って嬉しがらせるんだから〜〜☆』
『アハハ そんな事よりこんなに豪華絢爛なご馳走を用意してくれてかっちけねぇ さっ丁度良いや
お持たせで悪いが是で一杯飲もうじゃ無いか』
『はい 今日は貴方の仕事も一段落 其のお祝いにと・・其れと・・・』
『それと〜?マッなんでも良いやな ささ こっちきねぇ 
いやさおめえに無粋な事して怒ってんじゃないかと心配してた でも良く又顔出してくれた 有難うよ』
『いえいえ わたしこそあなたひっぱ叩いたりして嫌われたかと 
マッ積る話は後にして立派なお仕事の完成おめでとう御座います 心置きなく飲んでくださいませ ささどうぞ〜〜』
すっかり元のように打ち解けまして甘い二人の宴会が始まったので御座います


さぁ 目出度く噺が納まりますか?明日の最終回にご期待下さい♪